Poème En Prose014

「あなたはそれを怖れている」
「…あぁ」
彼は普段では考えられない程弱々しく頷いた。
「これだけは、どうしても…。それが二十年間黙っていた総ての理由だ」
彼は苦悶に近い表情を作った。
「今でもまだその影は残っている」
「大丈夫」
彼女は立ち上がると、彼の傍に座った。
そして、彼の顔を両手で包み込んだ。
彼は素直に彼女の手を受け入れる。
もう決してそんな事は無いだろうとお互いが思っていた事だった。
二人は自分の目に映る顔をじっと見つめ合う。
こんなにも二人の顔が近付いたのは、彼の言った通り二十年ぶりだろう。
彼女は慈悲深い彼の瞳が好きだった。
彼は彼女の包み込む様な口元が好きだった。
目元や口元には以前には無かった-歳を重ねた-跡があったが、それは、老いていく中でも美しさを損なう事無く、その歳相応の美しさを引き立てていた。
「大丈夫」
再び彼女は呟いた。
「私はあなたを愛している」
再び彼女が美しい笑みを作ると、彼は安堵した様に瞳を閉じた。
「有難う…」

2010.07.11 |  Poème En Prose | Text |  緋衣那 充希

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